RETIRE OF CRAFTMAN
今年の夏になってカドヤの工場を支えてきた熟練職人の1人が引退宣言をしました。
50年以上にわたって革製品の製作にとり組み、「技」を持って自分の腕一本で生きてきた人です。
定年後も仕事を続け働いてきた訳ですが、技術が衰えることはなく、まさに生涯現役。
新しいものを試す・触る・見聞きするといった自分の「技」を磨くための
投資を惜しまない”クラフトマンシップ”の持ち主。
それは、ひたすら貪欲に新しい手法を取り入れるという事ではなく
柔軟で気さくな人柄と、純粋な好奇心によって形成された人となり
であると感じます。
この人は自分に「1人1着縫い」を伝授してくれた師匠でもあります。
そんな人材を失いたくはないので、仕事の続行をお願いしてみたのですが
自分の中で節目をつけた決意は変わらず、先月をもって引退しました。
半世紀にわたる職人人生とはどんなものだったのか?
さまざまな理由はあると思いますが、自分の一部である手仕事から
離れざるを得なくなる状況の中、潔い引き際に愕くと同時に感銘を受けました。
自分が高齢などの理由で区切りをつけなければいけなくなった時、
現役に未練を感じつつ、この辺で潮時という決断を下した際に
同じように潔く退くことが出来るかどうか?
今はまだ実感が涌きません。
納得できるまで念入りに仕事をする実直な様や、その中に見え隠れする
数々の技。モノを作り出すセンスなど・・多才な人でありますが
自分で引き際を決めることも才能の一つであることを改めて感じました。
現場を去った後に思い出されるのは、常に真剣勝負で仕事に挑むときの
気迫に満ちた表情とは対照的な笑顔。
持ち前のユーモアで人を和ませ、若手職人や新人を気遣う優しさがありました。
大きな笑い声が聞こえなくなった今では、人柄の存在がどれだけ大きかったかを
痛感します。
もう一つは、お酒を飲みながらいつものように冗談を交え、会話をしている時の事。
「オレは自分のことを職人だと思ってる」と語りだした時のプライドに満ちた表情は
忘れることができません。
技術を含め多くのことを学ばせてもらいました。
直々にうけた教えは、感謝を忘れず後世に残してゆきます。
長い間 お疲れ様でした。
【中村】