
漉き
一着の革ジャンが作り上げられるまでの工程は、裁断、革漉き、縫製の三つに大きく分けられます。
革漉き機を使って革の厚みを部分的に、または1パーツ丸ごと薄く加工する工程を「漉き」といいます。
「革漉き機」はモーターの力で回転する樽型の石で革を送り、回転する刃で送られてきた革を任意の厚さにスライスすることができます。
服作りにおいて、「漉き」の工程を踏むのはおそらく革ジャンの世界だけです。
なぜ漉くのか、それは折り重なり厚みが増しすぎると、縫えなくなる、或いは糸テンションを維持できなくなるなどの、作り手側の事情もあれば、着心地を良くする、強度バランスを調整する、といった製品クオリティーに関わる理由などから漉き工程は必要になるのですが、そもそも革を漉くのは、革が漉ける素材だからです。
糸から作られている生地を革漉き機に通したとしたら、繊維が切れてバラバラになってしまいます。
近年、20オンス以上の分厚いデニムパンツが普通に流通していますが、薄い革よりも厚いこのデニム生地を漉くことは出来ません。
その為、1枚のところと、6枚重なった部分とでは単純に6倍の高低差が生まれ、ピンポイントで厚くなった部分に摩擦が集中しやすくなります。
デニムパンツの場合は、色落ちを含めそのアタリ具合のコントラストを楽しむ側面がありますから、それはそれで魅力に繋がりますが、革の場合、そういったことも含めて任意に調整することが出来るのです。
私たちが革を漉くときに、大事にしている事が三つあります。
強度バランス、縫製効率、そして仕上がりのニュアンス。
革は漉けるとはいえ、強度と厚みは比例関係にありますから、部分的に薄くするにも限度があります。
フラットにするほど縫いやすくはなりますが、仕上がりの雰囲気におおきく影響します。
厚みが生み出す「陰影」は革特有のひとつの大きな魅力で、ここは大切にとっておきたい部分ですから、あえて漉かない事がたとえ非効率的な縫製に繋がったとしても、革ジャンの表情作りを優先します。
結局のところ多くの場合、漉きは必要最小限に抑えることになります。
普段私たちが当たり前のように行なっているこの「漉き」の工程は、お客様には伝わり辛い裏仕事です。
しかしながら、ヘッドファクトリーでは「漉く」にしても「漉かない」にしても理由に裏打ちされた拘りがあり、漉きに対する行ったり来たりの考察は、製品に対する職人の愛情に他なりません。
素材の厚みを調整するこの「漉き」という一種独特な行程は、製品の着心地と雰囲気作りに関わるとても大切なプロセスなのです。
【市島】
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