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記事: 衿とボアと

衿とボアと

衿とボアと

季節を問わず、コンスタントに工場に届けられる、衿ボア後付けカスタムの御依頼。
作業内容としては、持ち込まれるジャケットの衿に合わせたボア(ムートン、コヨーテ、アクリル)の作成と、ジャケットの衿周りに取り付け加工(釦の打ち込み)を施すふたつの作業を行います。
先ずパターンナーにより、届けられたジャケットの衿型が計測されます。

レザージャケットの専門メーカーカドヤ


衿ボア取り付けの対象になるジャケットの衿は、シャツカラーとそれに類する形がほとんどです。
そこで、衿の作りについて少々、、、
衿は普通、表に見えている面(表衿)と、裏に隠れる面(地衿)の二枚で構成されていて、
この二枚は別々の形をしています。
原型となる地衿(裏に隠れる面)に対して、立体になった時の折り返り、内外径差などをふまえて、展開、変形させた形が表衿となり、変形の度合いはデザインと素材などの要素から決定され、一枚の厚みが1ミリを超える事が多いレザージャケットの場合、比較的おおきな操作が必要になります。
形の違う二枚の革を縫い合わせる時はいつでも、正確に縫い合わせる技術だけではなく、カタチとしての結果を想像しながら手を動かす必要があります。
それは地衿と表襟を縫う時も例外ではありません。
縫い始めすぐに現れる ”折り返りポイント " で一気にイセ込む、その間約15ミリ。
そこから先、衿先まで数センチのストレート、ギャップはゼロ必要なし、フラットに正確に。
第一カーブ ”衿先 ”に差し掛かり減速、ミシンの運針ダイヤルをグイとひねりピッチを変え、慎重に曲がり切る。
ピッチを戻し呼吸、発進、まだまだ衿先の一部、ここもギャップは無し、しばらく進み、そろそろか、
内外径差の生じる辺りから地衿をひっぱり緩やかに表衿イセ込み開始、ネックポイント通過、均等にイセ込みつづけ、、バックセンター通過、均等に均等に、、、


とは言え、パターンナーが用意した型紙上には、所々に縫い合わせを意味する印がされていて、そのポイント同士を合わせていけば思惑通りの形になるよう既にお膳立てはされていますが、得てして職人というものは疑い深く、自分と設計士のイメージがちゃんと重なるのか、両者は常にどこかで監視(確認) し合っている関係のように思っている、のは私だけか。
とにかく、衿は二枚からなっています。
取り外し式の衿ボアは衿に覆いかぶせて装着しますから、やはりここでも展開変形させた三枚目の形が必要になり、だからパターンナーによる衿の計測から作業が始まるのです。
ムートン、羊の毛皮。

レザージャケットの専門メーカーカドヤ


衿ボアに使用される素材で特に人気のあるムートンの特性として、保温力の高さは今更言うまでもありませんが、
その他にも通気性の良さ、吸水力の高さなどなど多くの魅力が挙げられます。
外気温が温かく感じられる季節でも、衿に取り付けたムートンボアの直に接する首周りが、暑苦しく感じたり、蒸れて不快になることは殆どなく(個人差有り)、その見た目とは裏腹に意外な程長い期間つけっぱなしにしていられます。
衿ボアの付け外し時期を決めるのは、
” あー、来た来た、首の周りが暑苦しく感じる季節がやってきた! そろそろボアでも外すか! ”
といった内的要因よりむしろ、
” さすがに暑苦しく見えるかな?、、外すか、、、”
といった対外的な部分、世間体により左右されてはいないでしょうか。
極端に言ってしまうと、本来ムートンは一年中オーケーな素材です。
機能性や下らないウンチクはさておいても、衿は顔の一部と言われる程、人の印象に影響を与えます。
付けたい時に付け、色違いの衿ボアを作り付け替えるもまた一興。
気分によって付け外しの出来る衿ボアは非常に便利なアイテムに違いありません。
因に、私が愛用している冬用革ジャンの衿ボアは、取り外しの出来ない縫い込み衿なので、ボアを外す時期イコール衣替えを意味し、私の気分はおかまい無しですが、それでも縫い込み式の良い所はあります。
先に書きました通り、取り外しボアの場合、地衿、表衿、その上に羊革が重なります。
さらに、衿にボアをかぶせる為のもう一枚の革を必要としますので、その分衿周りのボリュームがかさみ結果的に威風堂々とした男らしい印象に繋がるのですが、それは逆に首周りの内径を小さくする事となり、もともとのジャケットの首周りにゆとりが無かった場合、少し窮屈に感じる結果となり得ます。
とは言え、衿ボアの機能面に求めるのは首周りの保温性だけではなく、外気の侵入をそこで遮断する意味合いがあり、ある程度の密閉性はむしろ歓迎すべき効果ですから内径の変化が問題になる事は殆どなく、
では、縫い込み衿ボアの利点は?
無駄のない作りからなる馴染みの良さ、となりましょうか。
しかし取り外し式の利便性を知ってしまうと縫い込み式は、若干の覚悟が必要になり大袈裟に言うとそれは、のっぴきならない状況となりますので結局どちらも一長一短。
季節を問わず、コンスタントに届けられる、衿ボア後付けカスタムですが、
目的やお好みによりいくつかの方法が選択出来ます。
先ずそこから思案するのも面白いかもしれません。
【市島】